日本商工会議所青年部からの提言
日本商工会議所青年部からの提言
日本商工会議所常議員会・日本商工会議所会員総会に提出
去る3月15日に開催された日本商工会議所第560回常議員会・第199 回議員総会において、日本YEG國枝恭二会長は「議件8-2」として本提言 書の提出に至る経緯を切論、併せて日本商工会議所(以下、日商)が、当該問 題に関する積極的な調査・検討・精査を実践し、政府並びに関係機関へ建議・ 陳情していただくよう要望。日本商工会議所山口信夫会頭はじめ出席議員の満 場の拍手をもって受理されました。
また、本会には当委員会メンバーはじめ、平成19年度日本YEG浅井専務 理事予定者らにも立会いいただき、次年度日本YEGが本提言書の実現に向け てのフォロー・検証等を行うことを確認いたしました。
さらに、今年度、日本YEGの提言を日商に上程し、日商から政府並びに関 係機関へ建議・陳情していただく流れが構築されたことから、本事業は次年度 以降も日本YEGの継続的最重要課題との認識を持ち、春と秋の会長会議を通 して全国の単会から取り組むべき諸問題を吸い上げ、調査・検討の上、日商に 「提言書」を提出し、その問題解決を図るべく具申するよう強く申し送りいた します。
平成18年度日本YEG地域創造・支援特別委員会 委員長 西村 修
「提言書」
政府は、2006年11月の月例経済報告で基調判断を下方修正しつつも、 2002年2月に始まった今の景気拡大が、1965年から70年まで57ヶ 月間続いた「いざなぎ景気」を抜いて、戦後最長になったと判断、報告しまし た。
しかし、この好景気は、米中の好調な経済や企業の積極的なリストラ策がそ の背景にあることは明らかであり、実質経済成長率を見ても、いざなぎ景気期 間が年平均11.5%だったのに対し、今回の景気では2.4%にとどまるな ど、経済の伸びの勢いが極めて鈍く、国民の多くは景気回復を実感するまでに は至っていません。くわえて、賃金水準の切り下げや正規雇用からパートや契 約社員への置き換えが進んだことで労働配分率は下降線をたどり、多くの国民 の暮らしはギリギリのところにあります。政府の月例経済報告が基調判断を下 方修正したのも、個人消費関連指標が弱いことに依拠しているものと思われま す。
また、大企業と中小・零細企業、都市と地方、業界別に目を転じても、景気 回復は一部の大企業(特に製造業)、そして大都市に偏り、中小・零細企業( 特にサービス業)や地方には及んでおらず、社会格差の拡大も指摘されるなど、 経済全体の健全な体質改善が進んだとは言えない現状にあります。
今年度、日本商工会議所青年部(以下日本YEG)は、『地域が創る日本の 未来、故郷の新しい風YEG』をスローガンに掲げ、会長所信では、「日本経 済の根幹を支え、企業を育み、不安のない生活や教育を提供し、将来を担う若 者を育てるのも、“地域”というコミュニティの大切な役割であり、地域経済 を支える中小企業の役割である。地域が地域としてしっかり経営されてこそ、 故郷がある日本こそ、本当に愛すべきこの国の姿であると考える」として活動 を展開してまいりました。また、このスローガンと所信は、山口会頭から日本 YEGに寄せられた「健全な日本の発展は、元気な中小企業によって支えられ る」とのメッセージとも合致するものであると確信いたします。
前掲を踏まえ、日本YEGは、地域の声を活動に反映させるべく春のブロッ ク会長会議並びに秋のブロック大会開催に併せ、全国400単位商工会議所青 年部会長との意見交換の場を設けました。この中で、多くの中小・零細企業が 抱える課題として①中小企業の事業承継(相続)制度②金融の円滑化および信 用保証制度-などの改善に向けた実効性ある取り組みを期待する声が数多く寄 せられました。これを受け、日本YEGでは、学識経験者・国会議員・専門コ ンサルティング会社・所轄官庁・日商担当部署との勉強会や意見交換会を重ね ながら、当該制度に関する調査・研究を進め、以下の提言を提出さていただく に至りました。
つきましては、日本商工会議所におかれましては、当該問題に関する積極的 な調査・検討・精査を実践していただき、政府並びに関係機関へ建議・陳情し ていただきますようお願い致します。
以下、日本YEGとしての提言を記載いたします。
提言1
■相続税の非課税
中小企業(非上場)の後継者が事業を承継する場合、相続した自社株式に対 する相続税を、非課税(売却した場合を除く)としていただくようお願いいた します。
国内の中小・零細企業は、企業数で全体の9割以上、雇用では約7割を占め、 日本経済の礎であることは言うまでもありません。また、優れた技能・技術を 有する中小・零細企業も多く、日本経済が継続的発展を持続するためには、中 小・零細企業が健全に発展していくための環境整備が欠くべからざるファクタ ーであると言えます。
そのような視点に立脚するとき、多くの中小・零細企業の存続を圧迫する事 業承継制度の見直しは喫緊の課題と言えます。
平成17年10月、中小企業庁は「事業承継協議会」を設立し、中小企業の 事業承継円滑化に向けた総合的な検討を行い、平成18年6月には、中小企業 の円滑な事業承継のための手引きである「事業承継ガイドライン」を策定・公 表されたことは記憶に新しいところです。また、自由民主党経済産業部会中小 企業調査会でも中小企業に関する緊急決議のなかで「事業継承を円滑化するた めに中小企業関係税制の充実・強化を図ること」を決議しました。
日本YEGとしては、こうした国や政界の動きにも呼応しつつ、もう一段踏 み込んだ現行制度の改善を強く望む立場から、日本商工会議所が標記の提言を 積極的に推進していただくことを提言いたします。
提言2
■第三者個人連帯保証の原則撤廃
中小企業が金融機関から融資を受ける際の「第三者個人連帯保証」の原則撤 廃をはじめ、中小企業金融の円滑化および信用補完制度全般の見直しと改善を していただくようお願いいたします。
安倍首相は、所信表明の中で、内閣の重要課題として総合的な「再チャレン ジ支援策」の推進を表明しました。しかし、今の日本に目を転じると、欧米諸 国に比べ挑戦する人に厳しい社会構造になっています。とりわけ、経済分野の 諸制度も、「経営に失敗しないことが善で、失敗は悪である」との概念によっ て組み立てられたものが多く、失敗を経験として評価される欧米とでは大きな 開きがあります。
このことを端的に示す制度として不動産担保や保証人に依存した融資制度、 とりわけ第三者個人連帯保証があります。現行制度には、債務による自殺者の 数が年間で約8,000人、これに支払われる保険金が約2兆円に及ぶなど、 広義で悲劇的な社会現象を生む最大の根源といった問題も内包しています。ま た、一方で「連帯保証制度は金融機関の能力を低下させ、経営監視のインセン ティブを弱めるため長期的に倒産・自己破産を招きやすい体質を温存する」( 瀬尾佳美青山学院大学助教授)と指摘する声もあります。
平成18年度に、中小企業庁から全国の保証協会に対し「第三者連帯保証」 の原則撤廃の指示がなされるなど新たな動きも出ていますが、日本YEGとし ては、前掲のような悲劇が繰り返されないためにも、土地担保至上主義となら ぶ日本の金融の害悪ともいえる第三者個人保証を原則撤廃し、その上で、中小 企業金融の円滑化に支障が出ず、かつ再チャレンジ・やり直しできる文化を醸 成できるような新たな中小企業金融の信用補完制度制定・システム構築に向け て、日本商工会議所が関係機関と調査・精査・検討し、国・行政等に提言・提 案していただくよう強く要望するものであります。